現場に日本人を送らない海外での新規事業ってできないかな?
これまで海外展開をサポートしてる中で、こんな直球で聞かれることは少ないけど、本心としてはなるべく日本人を送らないで事業をまわして行けないかな、と淡い期待を抱いている人たちを少なからずみてきた。
実際に現地で活動したことがある人なら、ほぼ全員「そんなの無理だよ」と答えると思う。こんなにリモートワークが流行っているのに、やっぱり現場に人がいない新規事業は難しいのだろうか?
今回はそれについて、自分自身も2年近く行くことができなかったカンボジアでの生活を振り返ってみながら改めて考えてみようと思う。
新規事業の課題
海外での新規事業の立ち上げで直面する課題には、
- 顧客ニーズの把握
- 現地情報のアップデート
- 運営体制の構築
- 頻発する課題への対処
があげられる。では、1個づつもう少し詳しくみてみよう。
① 顧客ニーズの把握
オンライン情報が充実したとは言え、いまだに日本から知ることができる現地情報は、“ざっくり”している。
例えば「カンボジアでは、違法な農薬に汚染された野菜が流通しており、食品事故も発生していて、消費者が安心・安全な野菜を求めている」といったような情報はオンラインで見つけることができる。
確かに、安心・安全が大事だよね、ということは多くの消費者が感じている。しかし、追加のお金を払ってまで「安心・安全な食品」を得たいという顧客がどういった人なのか?どこにいるのか?といった具体的な顧客プロファイルまでオンラインで辿り着くのは困難だ。
現地調査では、自分たちの仮説(食の安全にニーズがある)が正しいことを確かめるだけではなく、いったい誰(顧客)にアプローチしたら、事業として離陸するのか?を考える必要がある。実際にビジネスを立ち上げるにあたって、具体的に誰をターゲットに事業化していくのか?といった部分は、実際に現場でヒアリングしてみないと感触はつかめない。
カンボジアの食の安全に関心がある人は、一般の消費者だけではなく、食品を海外に輸出しているような企業もいるし、食品安全行政をになっている省庁もいる。この中で、誰が一番本気で、食の安全に対価(お金)を払ってまで取り組みたいか?というリアルな情報は、ネットを読んでいるだけでは見えてこない。
② 現地情報のアプデート
5年ほど前に、カンボジアで実際に日本式の安心・安全な野菜を生産して、自分たちで販売する、という事業モデルを検証していたことがあった。その時の課題の一つに、どうやって顧客に野菜を届けるか?という流通の問題があった。収穫した野菜が、熱帯のカンボジアでは特に痛みやすい。当時、自分たちで宅配して流通を担うか?と考えたこともあったけど、さすがにコストが高すぎて1軒1軒宅配するには利益が見込めなくて断念した。
でも、コロナになる少し前から、カンボジア、特に首都プノンペンではフードデリバリーが一気に普及した。最近では、美味しいのにあまりお客さんがいないお店だな〜と思って食事してると、頻繁に、フードデリバリーのバイクが店先にやってきてランチボックスをピックアップしている。こんな仕組みが当時あったらよかったのに、とたまに思う。
これ以外にも、スマホのアプリを使ったサービスは、日本以上に広まるのが速い。今も大きなショッピングモールや省庁に行くと、コロナ対策でQRコードを読み取って過去の滞在履歴と照合していると思われる仕組みが導入されている。こんなの日本でなかったな、と思うものもいつの間にか広がってたりする。
こういった日々の生活の中で気づくような変化であっても、日本にいるとなかなかその変化に気づくのは難しい。
③ 運営体制の構築
現地で新しい事業を立ち上げるとなると、当然、事務所のセットアップ、スタッフの管理、サービスの構築、といった初期の立ち上げが必要となってくる。
これは単に製品やサービスを投入するだけではない業務で、こういった事務所の運営をするメンバーが必要になってくる。
企業の海外展開であれば、日本の本社が大事にしている価値観や考え方、といったものが海外事業でも大切にしたいと思うだろうが、そういった「思い」の部分までは、実際に現地で一緒に立ち上げていかないとなかなか浸透しない。仮に遠隔で毎日朝礼をオンラインで実施したとしても、これもまた難しい。
④ 頻発する課題への対処
現地に日本人スタッフは不在でも、現場に日本の働き方をよく知っているスタッフをおいているから大丈夫👍 と考えたくなる人もいるかも知れない。
でも、これまでにみてきたように「① 顧客ニーズの把握」や、「② 現地情報のアップデート」をしているなかで、当初の想定とは違った情報は必ず出てくるし、そう言った場合には当初のプランを軌道修正する必要がある。
この時に、遠隔(リモート)で、現場で実際に起きている問題を正確に知ることがいかに難しいか、ということがなかなか伝わらない。問題さえが分かれば、日本の本社から対処法を指示できるハズ、と思っている人がとても多い。でも実際には、遠隔で現地の状況を知ろうとして「何が本当の問題なのか、問題がなんなのかが分からない」といったセリフが日本側の責任者からよく聞く言葉だ。
また、仮に現場で起きている問題を把握することができたとしても、その対処方法を現場に委ねることがなかなかできない。本社は指示を出すけど、現場の問題を理解できていない。現場は問題を認識しているけど、自分で判断して対処することができない(能力・経験の欠如、もしくは権限が与えられていないため)。
これでは完全なデッドロックだ。どうすることもできない。これを回避するには、「現場で適切な判断ができる責任者」を配置するしか方法はないと思う。
このように、いかに遠隔(リモート)での海外での新規事業の立ち上げが困難であるか、が伝わったのではないかと思う。
現地責任者
現地責任者に相応しいのは誰か?
では、海外で新規事業を行うには、現場に日本人社員を送るしかないのか?と言われたら、間違いなく一番よい方法は、現場に日本人の責任者クラスを配置して、その人に現地に詳しくなってもらい、事業を運営することだと思う。
これが難しい場合には、もう一つの手段として、日本の本社で、事業展開先の国の人(例えばカンボジア人)を採用して日本の本社での働き方や考え方について身につけてもらった上で、何年かしたら現地の責任者として働いてもらう、というパターンならアリかも知れない。
本社 vs 現地 の構図
どんなに大きな歴史ある組織で、海外経験が豊富だったとしても、「本社は現場のことを何も分かってない」、「現場は本社の指示を全く聞かない」といった内部での対立が、当たり前のように発生している。もはやこれはそう言った対立が起きるのが必然なんだろうな、と思えるくらい日常茶飯事のイベントだ。
これが、いろいろ不確定で不安定な新規事業になれば尚更、日本本社と現地での対立というかコミュニケーションの難しさが浮き彫りになる。
まずは責任者を決めよう
なので、海外での新規事業の立ち上げを相談された時に、自分が決まって聞くセリフは「どなたが現地で責任者として事業をまわしてく計画ですか?」となっている。
海外事業は楽しいし、挑戦が好きな人にとってはやりがいのある仕事だと思う。なので、ぜひぜひ、いろんな海外に挑戦して人生を楽しんでみて欲しい。