海外進出の第一歩は、国選びです。でも、世界は広い。まずは現地に行くことは重要ですが、そもそもどの国を候補として視察すればよいのか悩ましい。
そこで、中小企業が海外進出を検討するための第一歩として、視察する国の絞り込み方をご紹介します。
今回ご紹介するステップは、いずれもウェブサイトを中心に調べれば手に入る情報ですので、活用してみてください!
全体を俯瞰する
国選びの理由
海外進出するなら「どの国でも構わない」という方は少ないと思います。まだ行ったことがなくても、なんとなくこの国・地域で事業をしてみたい、といったイメージは持たれていると思います。例えば:
- 既にその国の人と知り合いであり一緒にビジネスをしたい
- 知り合いの企業がその国に進出しているから安心
実際に私たちがサポートしてきた企業の方もこれらの理由をあげる方が多いです。このような選び方もありだと思います。きっかけは大事ですからね。
とは言え、海外進出をするのであれば、できる限り自分達にとって「ベストな選択」をしたいですよね?
確かに、現地に信頼できるネットワークがあるのは大切なポイントですが、そもそもその国でのビジネスの可能性が、他国よりも不利であるなら、もっと自分達にとって有利な国がないか検討してもよいと思います。
すでに興味のある国が決まっている場合にも、その近隣国の情報についても、オンラインで手に入る情報を比較して一呼吸おいて考えてみるのがおススメです。
まったく知り合いがいない国の場合、現地でのネットワークを新たに開拓する必要がありますが、そういった場合には、私たちのような海外進出支援をしているコンサルタントもいますから頼ってください。
地域を俯瞰する
例えば、東南アジアや東アフリカ、といった大きな地域で俯瞰してみることが第一歩となります。この段階では、現地の具体的なビジネス環境の分析というよりも、ざっくりと大きな時間軸の流れの中で、ご自身のビジネスに適したステージにある地域のイメージを持つことが目標となります。
地域の情報を知るには、まずは簡単にアクセスできる情報、オンラインで記事検索ができる日経電子版(https://www.nikkei.com/)で気になる地域の記事(国際・アジアのタブから地域を選択)を探してみます。ご自身のビジネスと関連がある「農業」や「ブロックチェーン」といったキーワードについて調べてみると見逃していた情報に気づくこともあります。
国ごとの情報については、新聞系のウェブサイトの他:
・JETRO(地域分析レポート)
なども定期的にトピックが更新されています。
その他、英語の記事になってしまいますが、私も実際に参照しているサイトはこちら:
・CIA The World Factbook
→各国の基礎情報が網羅されています。
・OECD Economic Outlook
→経済指標が、過去、現在、未来に渡って、各国ごとにとれるという便利なサイトです。
大きなトレンドを分析する
別記事で過去20年間の日本とASEANの経済成長について紹介しましたが(世界のなかの日本:ビジネスで世界と関わっていく)ASEANは経済規模がこの20年で4倍にもなっています。
人口動態をみる
この間、「人口ボーナス」と言われる生産年齢人口(15~64才)の増加による経済成長がASEANの経済成長にも大きく貢献してきたハズです。しかし、大きなトレンド(人口動態)でみると、今後のASEANの経済成長は、過去の人口ボーナス中心の成長から変わる可能性も考えられます。
この人口動態を把握するには:
・国連(World Population Prospects)
が参考になります。
ASEAN10か国の1997年から2037年までの20年ごとの生産年齢人口(15~64才)の推移はこちらとなります。
単位:千人
1997年 | 2017年 | 2037年 | 増加率 97/17 | 増加率 17/37 | |
ブルネイ | 202 | 311 | 349 | 54% | 12% |
カンボジア | 5,806 | 10,293 | 13,466 | 77% | 31% |
インドネシア | 128,069 | 177,730 | 208,819 | 39% | 17% |
ラオス | 2,635 | 4,327 | 5,887 | 64% | 36% |
マレーシア | 13,235 | 21,945 | 26,646 | 66% | 21% |
ミャンマー | 27,273 | 35,992 | 41,580 | 32% | 16% |
フィリピン | 42,075 | 66,603 | 88,508 | 58% | 33% |
シンガポール | 2,586 | 4,116 | 3,924 | 59% | -5% |
タイ | 41,595 | 49,229 | 43,016 | 18% | -13% |
ベトナム | 46,161 | 66,678 | 72,577 | 44% | 9% |
ASEAN合計 | 309,637 | 437,224 | 504,772 | 41% | 15% |
ASEAN全体でみると過去20年(1997年と2017年の比較)で、生産年齢人口は41%も増えています。特に、増加率が高い国は、カンボジア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポールです。
他方で、この先20年間(2017年と2037年の比較)では、ASEAN全体の増加率は15%に鈍化し、特にタイ(-13%)とシンガポール(-5%)では減少に転じます。また、ベトナムもマイナスではないものの過去20年の44%と比較すると9%と鈍化します。依然として、カンボジア、ラオス、フィリピンでは30%以上の増加が見込まれていますが、これも過去20年間と比較すると約半分のペースに鈍化していくことが分かります。
この人口動態から考えられる予測としては、ASEANの経済成長は従来の人口増加にけん引された経済成長(作れば売れる)モデルから、私たち日本が経験してきた人口減によるデフレ(モノ余り)にも似た経済モデルへの変化が生じると思われます。
私はこの人口増加の停滞を悲観してはいません。視点を変えれば、これまでは、多くの国の所得水準が低いこともあり「安いものを大量に売る」ビジネスが中心でしたが、「よいものを高く売る」ビジネスモデルが広がっていく可能性もあると思います。
デフレ状況下の日本企業が苦しんだ「作っても売れない、売れないから安く売る、企業が稼げない」といった負のスパイラルとは“違った”ビジネスモデルが構築できれば、ASEAN市場は日本企業にとってもより魅力的な市場になっていくと考えています。
(詳しくはこちらの記事を参照:「日本企業はどうしたら元気になるのか?」)
経済をみる
各国の経済動向の分析として外せない参考情報はGDPです:
・世界銀行(World Development Indicators)
ASEAN10か国の1997年から2017年までの10年ごとのGDPの推移はこちらです。
単位:百万ドル
1997年 | 2007年 | 2017年 | 直近10年間の 平均成長率 | |
ブルネイ | 5,197 | 12,248 | 12,128 | -0.1% |
カンボジア | 3,443 | 8,639 | 22,158 | 9.9% |
インドネシア | 215,749 | 432,217 | 1,015,421 | 8.9% |
ラオス | 1,747 | 4,223 | 16,853 | 14.8% |
マレーシア | 100,005 | 193,548 | 314,710 | 5.0% |
ミャンマー | n/a | 20,182 | 67,069 | 12.8% |
フィリピン | 82,344 | 149,360 | 313,595 | 7.7% |
シンガポール | 100,164 | 179,981 | 323,907 | 6.1% |
タイ | 150,180 | 262,943 | 455,303 | 5.6% |
ベトナム | 26,844 | 77,414 | 223,780 | 11.2% |
ASEAN合計 | 685,674 | 1,340,755 | 2,764,924 | 7.5% |
ASEAN全体で、2007年~2017年の直近の平均成長率は7.5%と高い値ですが、この中でも特に年8%を上回っているのは、カンボジア、インドネシア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの4か国です。インドネシアは人口も多いこともあり、ASEAN全体の37%ほどのGDPを占めているうえに成長率が高いといったことが分かります。
国全体の豊かさ(GDP)に加えて、一人一人の消費者の購買力をみるには一人当たりGDPが参考になります。
1997年 | 2007年 | 2017年 | |
ブルネイ | 16,656 | 32,672 | 28,291 |
カンボジア | 305 | 632 | 1,384 |
インドネシア | 1,064 | 1,855 | 3,846 |
ラオス | 345 | 710 | 2,457 |
マレーシア | 4,637 | 7,269 | 9,952 |
ミャンマー | n/a | 410 | 1,257 |
フィリピン | 1,127 | 1,673 | 2,989 |
シンガポール | 26,386 | 39,224 | 57,714 |
タイ | 2,467 | 3,972 | 6,595 |
ベトナム | 347 | 901 | 2,342 |
伸び率はおおむね国全体のGDPの推移と似たような動きになりますが、カンボジアに注目した場合、20年前の一人当たりGDPが305ドルであったのが、2017年には1,384ドルと約5倍に増加しているのは、経済成長から遠ざかっている日本とは大きな違いです。
まだ伸びしろが大きいと思われる一人当たりGDPが3,000ドル以下のカンボジア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、ベトナムをターゲットとするのか、市場がある程度成熟しつつある3,000ドルを超えているようなインドネシア、マレーシア、タイのような国をターゲットとするのか、は大きな判断のポイントになると考えています。
事業展開のタイミング
海外での事業開発は、新規事業の立ち上げでもあり「タイミング」がとても重要です。
いつか日本のような製品やサービスが受け入れられる状況になるのかも知れませんが、投入するタイミングが早すぎても市場に受け入れられない(=潜在ニーズがまだ顕在化していない)し、遅すぎては競合がたくさんでてきてしまいます(中小企業には戦いづらい市場となってしまう)。
みなさんの製品やサービスに適した市場のタイミングを見極めるには、このようなマクロデータを中心に情報収集をした後、視察対象国を数カ国に絞って、いよいよ現地で実際に消費者のニーズを調査することが大切です。
最後に
今後の日本企業の海外進出は、従来の安価な労働力を求めて海外進出するビジネスモデルから、進出先の市場の開拓を目指すビジネスがトレンドになっていくのだと感じています。
今回は、参考例としてASEANの情報を中心にご紹介しましたが、これらの情報はオンラインで入手できるものですので、みなさまが海外進出を検討される際に参考になれば幸いです。
基礎情報を収集して分析し、次のフェーズでお手伝いが必要になったら、私たちも現地での調査や事業化のコンサルティングを提供していますのでお問い合わせください!