日本人は貧しくなっている。
海外で仕事をしている時にたまに感じる不思議な感覚。
これは「精神的な豊かさ」といったたぐいのものではなく、まさに言葉そのまま金銭的な意味で貧しくなっていると感じるのだ。
国としての豊かさ
GDPの嘘
一国の豊かさの指標として、GDPを参考にする考え方に私たちは慣れきっている。
2017年の数字では、日本のGDPは世界第3位の4.9兆ドルだ。日本より上なのは、アメリカの19.4兆ドルと中国の12.2兆ドルだ。
だから、日本は世界で3番目に豊かな国なんだ、といえるのだろうか?
途上国で働いていると現地の人たちの給与水準が驚くほど安い、なんてことは少ない。逆に、相応のスキルを持ったスタッフを雇いたければ、一般の日本人と対して変わらないか、もっと高い報酬を払わなければならない。
一人当たりGDP
同じGDPを使った指標でも、一人あたりGDPという指標がある。
個人レベルの視点で見るなら、こちらの数字の方が実感に近いのだと思う。
2017年の一人当たりGDPでは、日本は38,428ドルで世界第27位だ。世界第3位の国としてのGDPからするとだいぶランキングが落ちている。
ちなみに1997年の日本の一人当たりGDPは、35,022ドルで世界第7位だ。つまり、この20年のあいだ一人当たりGDPでみると日本人があまり増えていない一方で、世界中の人たちが豊かになり、変化のなかった日本は順位を下げている。
日本の経済成長のために
失われた20年
日本の経済に元気がなくなったといわれる「失われた20年」の特徴といえば:
- デフレによる物価下落
- 価格競争による企業の疲弊
- 低賃金・長時間労働
書いていても悲しくなるくらい悲観的なフレーズで語られる。
私は、この理由は、日本企業の稼ぐ力が落ちていることが原因だと考えていた。
「いいものを安く」
まさにデフレの代名詞のようなセリフだが、これが諸悪の根源なのではないか。価格を下げなければ売れないくらいに、市場が飽和してしまっている。これが今の日本企業が置かれている状況なのだ。
生産性の向上
いいものを高く売るモデルへの転換
こういった状況から日本企業が立ち直る手段として、デービッド・アトキンソンは:
この状況を生き延びるためには、賃上げをして生産性を高めることが不可欠です。しかも日本の生産性は、世界第28位ときわめて低い順位に低迷しています。これは「伸び代」が大きいということで、日本にとってのチャンスです。ここさえ何とかできれば、日本の未来は明るいといえます。
デービット・アトキトソン「日本人の勝算」(東洋経済新報社)
と指摘している。
ポイントとしては、賃上げと生産性の向上の両方をセットに実現しないといけないという点だ。
「いいものを安く」を売るモデルから、「いいものを高く」売るモデルに転換しなければならないと、デービッド・アトキトソンは指摘している。
海外の市場へ
いいものを高く売るビジネスモデルを作るには、日本企業同士で、すでに過当競争にある日本国内市場で戦っていても、いずれ再び失われた20年と同じサイクルに突入してしまう。
つまり、日本企業が目指すべき市場は、世界の市場をターゲットに、そして特に成長しているASEANなどの新興国の市場だ。
いま、日本企業に必要なのは、新たな市場を開拓する覚悟で、海外に挑戦することなのだと思う。
いま私たちがすべきこと
いいものを高く売る仕組みを作るために、私たちが今すべきことは何か?
経営者の視点から
今あなたの会社が、価格競争に巻き込まれていて「いいものを高く」売る仕組みができていないなら、それはビジネスモデルを見直すべきだ。
会社の稼ぐ力が弱いことを理由に「優秀な従業員をいかに安く雇用するか?」といった思考になっていないだろうか?
それでは「いいものを安く」売るビジネスモデルから脱却できない。いかにして「いいものを高く」売るビジネスモデルを構築できるかを考えてみてほしい。
従業員の視点から
今あなたの会社での待遇について「給料が安すぎる」と感じているなら考えてみてほしい。
もし仮にあなたの給与が今の2倍になったとしたら、それだけの価値をあなたは提供できるだろうか?
2倍の給料を会社が払うとなったら、当然、そのポジションを欲しがる日本人・外国人の労働者との競争が起きる。そうなった時、あなた自身は価値のある人材であると言えるだろうか?
一人一人の意識改革
結局のところ、今のこの日本の現状をつくっている当事者は、経営者、従業員など立場は違えど、私たち自身なのだ。
この状況を変えたいと思うなら、私たち一人一人が意識を変えていかなければならない。
そして、日本企業は、中小企業も、海外の市場に攻めていくことも必要なのだと思う。