“遠き慮りなければ必ず近き憂いあり”
論語の一節で「遠い将来のことまで考えずに目先のことばかり考えていると、近いうちに必ず困ったことが起こる」ということ。
今回は、新規事業の計画と実施をテーマに、長期的な視点の大切さについて紹介してみようと思う。
その新規プロジェクト、目標設定の仕方を間違えていない⁉︎
1年~3年くらいの期間の新規プロジェクトの企画をしている時、もちろん、新規プロジェクトの中で直接的に達成するゴールを設定するだろう。以下ではプロジェクトの直接的なゴールを、便宜的に「プロジェクト目標」と呼ぶ。
このプロジェクト目標の設定方法には、大きく2つのアプローチがある。
積み上げ式
積み上げ式の思考
1つは「積み上げ式」で目標設定をするパターン。現時点の自分たちの立ち位置、まわりの状況、考えられる可能性を踏まえて、手持ちのカードの中からベストな組み合わせをもとに「積み上げ式」でゴールを設定するパターンだ。
現状分析を通じて、もっとも成功確率が高い、インパクトがある、などといった取捨選択を通じて、与えられた期限の中で現実的に達成できるものを「プロジェクト目標」に設定する。
実際問題、このようなアプローチでプロジェクトを立案する人は多い。正直、自由に提案をしてよいと言われたら、ほとんどの人がこのアプローチで思考しているように思う。
積み上げ式のゴール
しかし、こういった「積み上げ式」でプロジェクトを考えた人に、「プロジェクト後の“さらに先に”何を目指しているのか?」と問いかけるとおもしろい反応が返ってくる。
大抵の場合、「このプロジェクトの目標は〇〇です」とプロジェクトの中で設定したゴールの説明を受ける。
「いや、プロジェクト目標は知っているから、私が知りたいのは、さらにその先に何を目指しているのか?なのだけど」と聞くと、「プロジェクトの先もいろいろ考えています」といったような歯切れの悪い回答で、明確な回答は得られない。
なぜか?
答えはシンプルだ。
計画した本人が、現実的にできそうなことを単に積み上げただけで、長期的にどこに向かっていきたいのかについて明確な展望を持っていないのだ。
結果として、実際のプロジェクトのオペレーションの中では、「計画通りに実施すること」や、「プロジェクト目標」を達成することが優先課題となる。そして、「長期的なゴール」について真剣に考えるプロジェクトメンバーもほとんどいない。なぜなら、長期的なゴールが何であるかが、プロジェクトの設計段階から軽視されているのだから。
バックキャスト式
バックキャスト式の思考
逆に、長期的にどのような状況を実現したいか?というゴールを設定し、プロジェクト期間の中で、そこに向かうためにどこまで達成するか?を考える方法が「バックキャスト式」だ。
現在の手持ちのカードの分析に注力する「積み上げ式」と異なり、「バックキャスト式」で重視するのは最終的なゴール設定だ。自分たちの目指す先に何を見据えているのか?という長期的な視点が重要になる。
この最終的なゴールを設定した上で、改めて現状を分析し、ゴールとの間のギャップを埋めていく手段を考えることになる。
バックキャスト式のゴール
当然、この「バックキャスト式」でプロジェクトを考えている人に、「プロジェクト後の先に、何を目指しているのか?」と聞けば、答えは明確だ。
「バックキャスト式」で考案されたプロジェクトを実施する人にとっては、「プロジェクト目標」を達成することも重要であるが、さらに「長期的なゴール」を達成できるか?が最も重要なテーマとなる。仮に「プロジェクト目標」が達成できても、「長期的なゴール」につながらないのであれば、プロジェクトを継続する意味などないと言える。
それぞれのロードマップはどこをめざしているか?
ここまでで、新規事業は「バックキャスト式」で考えるべきだという私の主張は伝わっていると思うが、もう少しだけ補足したい。
現在いる場所をA地点、プロジェクト目標をB地点、長期的なゴールをC地点とする。
積み上げ式のロードマップ
この場合、「積み上げ式」では、今いるA地点から、与えられた期間内、例えば1年間、で現実的にたどり着ける場所として、B地点が設定される。
その先にC地点があるかなんてことは重要ではないので、このプロジェクトの地図には、A地点からB地点に確実にたどりつくための細かな道順、進むペースなどが細かく指定されている。
実際に行動に移す段階になったら、綿密に練り上げた事前計画表に従って、一歩づつB地点を目指すことが重要なテーマとなる。
バックキャスト式のロードマップ
他方で、「バックキャスト式」では、長期的なゴールとしてC地点がどこにあるのか?を設定することがまず重要となる。
例えば、10年後にC地点に辿りつくという目標が設定されたのなら、10年後にC地点にいるためには、1年後にはどこまで進んでいなければいけないか?といった逆算からB地点が設定される。
このプロジェクトの地図でも、A地点からB地点に進む道順などが綿密に指定されているかもしれないが、重要なのは最終的に10年後にC地点に辿りつくことである。
つまり、実際に地図を手に歩きだしたとしても、当初目指していたB地点が、C地点に辿りつくのに無意味な場所であったり回り道であると分ったなら、わざわざB地点を目指す必要なんてなくなる。それよりも得られた最新の情報でどうやってC地点に向かって進むかを再定義することになる。
「遠き慮りなければ必ず近き憂いあり」
長期的な視点を持たない近視眼的な活動には問題が起きる。まさにこの警告のとおりだ。
新規事業は長期的な視点から計画する
計画された目の前の活動の実施だけに囚われるのではなく、自分たちが目指す長期的なゴールの実現に向けて、いま取り組んでいる活動が意味のあることなのか?を考えることが重要なのだと思う。