新規事業とか新しい取り組み。この言葉の響はそそられる。自分は得意と言えるかはわからないけど、新規事業の立ち上げが好きだ。
途上国でビジネスの立ち上げを目指す起業家を支援する「40億人のためのビジネスアイデアコンテスト」や、中小企業の海外進出を支援する「飛びだせJapan!」の企画やその運営の仕組みをつくってきた。
こういった新しい取り組みをデザインするのは楽しい。でも、「新規事業」はなかなかうまくいかないのも事実。
今回は、新規事業がうまくいかない理由と、それを解決するヒントについて書いてみようと思う。
ビジョンを掲げる
自分たちの存在意義であり共通の目標となるもの
何か新しい取り組みを始めようとした場合、その取り組みの目標を決めなくてはいけない。ずっと一人で活動するような場合は別として、複数の人が一緒に何かを協力するには「共通のゴール」といったものがなければ、チームとしてまとまることは難しい。
最初のうちは、こういった新しい活動をしていることが単純に「楽しい」から、参加する人たちもいる。
でも、そもそも考えて欲しい。新規事業が楽しくてみんながやりたいような仕事だったら、「新規事業を立ち上げるんだ」と力を入れて頑張る必要なんてないだろう。
むしろ、誰もどのようにやったらいいのか、何をやったらいいのか、わからなくて誰も率先してやらないところに、あえて「新規事業」を立ち上げる意義があるのではないか。
新規事業の特徴をあげるなら:
- 多くの人がその必要性や意義について同意していない
- でも、新規事業をやることが必要だと信じる一部の人(例えば、あなた)がいる
- つまり、初期の段階から大多数が賛成するような新規事業はない
ずいぶんと後ろ向きな話から始まったけど、新しく何かを始める、ということはこう言った状況なのだと思う。それは、社内で始める新しい取り組みであっても、個人として始める取り組みであっても同じだ。
最終的には、新しく取り組みを始めた活動が広がりをもって、社会と関わっていきたいと考えているなら、多くの人の心に刺さる自分たちの存在意義「ビジョン」を示すことが必要なのだ。
ビジョンを実現するステップをブレークダウンする
ビジョンができたら、それをどのように実現するかを考えることが必要だ。
新規事業を立ち上げる場合、掲げるビジョンとは、困難で今すぐには実現できないもの、なハズである。
「明日の朝、コーヒーを飲む」
なんて、大抵の人にとっては、容易に実現できることであり、そんな簡単なことはビジョンとはならない。
掲げるビジョンは、何年もかけてようやく実現できるかもしれない、くらいの大きな目標である。でも、いきなり何年か後の理想の姿だけを掲げられても、その夢が壮大であればあるほど、人は悩み、途方にくれてしまう。
ビジョンを掲げたのちに必要なステップは、何年か越しに実現したい世界のために、それをどのようなステップで実現していくかブレークダウンすることである。
例えば、「5年後に実現すると決めたビジョンがある」なら;
- 1年後、3年後までに、どこまで実現していなければいけないか?
- 今年1年の目標は何か?
- 今年の目標を達成するために、この1ヶ月で何をすべきか?
- この1ヶ月間、まず日々取り組むべきことは何か?
こうやってブレークダウンされた直近の目標は、実現可能なものになっていなければならない。直近の目標を設定する時に「今できないことを、急に、明日できるようになる」というのは計画としては失敗だ。できないことをどのようにできるようにしていくのか?を考えていかなければならない。
仲間を集める
新規事業の立ち上げにあたって、最大のヤマ場は、この「仲間を集める」ステージだ。
どうやって集めるか?
私も新規事業を始めようとする時、まずは身近な人たちから集める。逆に、全く知らない人をいきなり仲間に加えるなんてチャレンジャーは少ないだろう。
どうなるかわからない新規事業に共感して、もしくは少なくとも協力を申し出てくれた仲間は大切にしたい。
でも、その気持ちは、時に大きな足枷になることもあると知った。
仲間の見極め
新規事業を始めるタイミングで集まった仲間も一枚岩ではない。全員がビジョンとそれを実現するためのステップについて同意している、なんてことはまず無い。
極端なケースでは、そもそもビジョンについて全く異なる考えをもったメンバーがいることもある。そういったメンバーがチームの中にいて議論をどれだけやっても、正直、実際の作業は1ミリも前に進まない。
もちろん、そもそもビジョンとして目指すべき方向性が正しいのか?それを実現するためのステップとして何が最適なのか?を話し合っている段階であるなら、議論は必要だし、そこで異なる意見に耳をふさいでいては、可能性を見失ってしまうかもしれない。
議論をしている段階であれば、考え方が異なるメンバーがいること自体は悪くはない。
でも、実際に活動を始めた段階で、そもそものビジョンや大きなステップについて議論が合わないメンバーには素直に退場してもらうべきだ。議論好きの人も、新規事業という言葉には引き寄せられてくる。そういった人たちは、議論が好きなだけで、実際の事業の運営には役に立たない。
新規事業の立ち上げ期、この先どうなるかわからない取り組みに興味を持って手を挙げてくれた人だからメンバー全員を大切にしたくなる気持ちはある。そして、反対意見の人はたいてい声も大きいので気になる存在でもある。
でも、本当に大切にしなければいけないのは、次の「信頼できる仲間」の方だ。
信頼できる仲間とは?
そもそもの志向性が合わないメンバーは、新規事業の立ち上げ期の仲間にはなり得ないと述べた。
では、それ以外であれば、全員OKなのだろうか?
人の心は離れていく
新規事業の立ち上げ期において、大切な仲間は、反対派ではなく、まずは賛成派として協力してくれるメンバーだ。その次は、反対でも賛成でもない中間派の人たちが仲間になってくれるようにすることだと思う。
しかし、賛成派も永遠に賛成派のままであるとは限らない。新規事業の立ち上げは、一種の「熱病」のようなものだ。何か新しいことを始めるワクワク感で、例えるなら文化祭の実行委員のようなノリのメンバーも多い。
大切なのは、そういったメンバーは、いずれ「飽きてしまう」ことも頭に入れておくべきだ。もちろん、常に楽しく、全力で一緒に取り組んでもらえるような環境を整えられるのがベストだと思う。
でも、私自身は特にそういったことが苦手だ(笑)
新規事業を立ち上げようとする時、それこそやるべきことがたくさんある。企画を練って、具体的な計画に落とし込んで、スケジュールにそってひとつづつ着実に実行していく。これが本命の作業であることは間違いない。
そうなってくると、残念ではあるけど、メンバーのモチベーション維持がおろそかになりやすい。正直、この部分は私自身が苦手な分野なので、得意な人は羨ましい。
でも、繰り返しになるが、仲間を集めて楽しくやっていくこと自体が目的なのではない。ビジョンとして掲げたことを実行するために、チームは存在するのだ。
本当に信頼できる仲間とは?
新規事業の立ち上げはとてもエネルギーがいる作業だ。
複数人で取り組んでいる活動であれば、仲間と思っていた人が離れていくこともある。それはとても辛い状況だ。
でも、それに一喜一憂している余裕なんてないハズだ。やるべきことが山積みの新規事業の立ち上げ期、メンバーが増えた、減ったといったことに一喜一憂して心をすり減らしている余裕なんてない。
だからこそ、本当に仲間となって一緒に進んでくれる存在がいればとても心強い。
そういったメンバーは誰なのか?
正直、それを見極めるのは簡単でもあり、難しくもある。
簡単である理由は、「行動は嘘をつかない」。この一点に尽きる。
どれだけ言葉で、協力する、一緒にやりたい、と言われても、残念だけど、言葉はいくらでも嘘がつける。
でも、行動は裏切らない。
新規事業の立ち上げで、本当に信頼ができる仲間を探しているなら、相手の実際の行動を観察すればいい。
こちらから強く言わなくても、常に一緒に協力してくれているなら、約束を守り続けてくれているなら、その人は信頼できる仲間だ。
逆に難しい理由も同じだ。
言葉は嘘をつく。
新規事業の立ち上げで大変な時期に、一緒にやりたい、協力するという言葉は魅力的な囁きだ。それに頼りたくなってしまう気持ちがあるのも事実。
結局、新規事業を一緒に立ち上げる仲間とは、優しい言葉をかけてくれる友人ではなく、常に一緒に動いてくれる仲間なんだ。
どんな辛い状況でも最後まで逃げない、そんな覚悟をもった仲間は大切だ。
そして、仮に仲間だと思っていた人の心が離れたとしても、それはそれで仕方ないこと。それくらいに思っていた方がいいんじゃないかな。確かに、辛すぎる状況ではあるけど、結局、自分自身がなんのために新規事業を成し遂げたいと思ったのか、その原点を忘れないようにしたい。
資金をどうするのか?
新規事業を立ち上げるには、ヒト、モノ、カネといわれる要素をそろえなければならない。
私がこれまでやってきた新規事業の立ち上げは、製品や商品の開発ではなく、サービスの開発なので、ヒトとモノはほぼ同義になっている。サービスを提供できる人材をそろえるか、自分自身でサービスを構築していくか?くらいしか選択肢はなかった。
なので、今回は、資金(カネ)についてふれようと思う。
社内での資金調達
あなたが、会社のなかで新規事業の立ち上げに取り組んでいるなら、資金も重要な要素だ。
会社であるからこそ、新しい事業への「投資」として位置付けられているハズだ。あなたの道楽に会社がパトロンとなって資金をだしてくれているなんて状況はあり得ない。
社内の新規事業では、どれだけその意義、必要性について熱く訴えたところで、最終的には、「その新規事業、売り上げにつながるの?」という経営者からの問いかけに答えられなければならない。
ビジョンや思いを重視したい情熱系の私も、この部分の売り上げについての話はあまり好きではない。
でも、説得するためには、経営者が望む将来の売り上げにコミットする覚悟をあなた自身が持っているか?はとても重要なのだ。
こういった将来の売り上げの数字について、答え(金額)を最終的に決めるのは、新規事業を企画した責任者ではなく、それを承認する経営者だ。経営者が提示した目標に対して、「私に任せてください」と答えることができるだけの覚悟をあなた自身がもてるかどうか、が大切なのだと思う。
個人で始める場合の活動資金
個人で始める活動であっても、生きていくためには稼がなければならない。
そして、個人でやるということは、会社に所属している以上に資金をどのように手当てするか?が大きなテーマとなってくる。
あなたが企画した新規事業について、一緒にやってくれるという仲間が現れたとしたら、一緒に事業のオーナーとなって事業を立ち上げるかどうか?を真剣に考えなければならない。
「この人のやりたいことは、私と同じだ」といったくらいでは、正直、十分ではないのだと思う。
結局、事業を共同で進めていく上で問題がおきるのは、悲しいけど、うまくいっている時ではなく、失敗した時であることが多い。うまくいかない時、相手がどのような行動をとるかはコントロールできない。
新規事業の立ち上げにはリスクが大きい。計画通りにいくことなんてまずないし、どうなるかなんて誰にもわからない。
新規事業の立ち上げに集まった仲間を信頼してはいけない、とは言わないが、その新規事業のリスクは自分自身で受け止める覚悟が必要なのではないか。
個人でやる場合には、逆説的ではあるが、資金的に厳しい状況ではあるにしても、可能であるなら自分自身の「お金」で事業の立ち上げをするのが最善なのだと思う。
それでも新規事業は楽しいんだ
今回の記事では、新規事業の楽しさを伝えたかった。でも、実際には、ネガティブな話が多くなってしまった。
でも、新規事業を立ち上げようとする人は、その楽しさに魅入られているのだと思う。私も新規事業の立ち上げが好きだし楽しい。
だからこそ、新規事業の立ち上げにあたって、楽しくない「負」の部分についても、心に留めておくことがみなさんの役にたてばと思う。