企業による新規事業の多くが失敗する。トップが号令をかけているにもかかわらず社内を見渡すと誰も新規事業に真剣に取り組んでいない…そんなこともよくある。
今回は、企業が新規事業を成功させるために、新規事業と相性が悪い/良い企業の価値観について考えてみる。
マニュアル化に向かう組織
多くの人は、初めのうちは試行錯誤のなか苦しみながら進んだとしても、ある程度経験を積んでパターンが見えてきた段階で、もっと効率よく運営できる仕組みを作りたいと考える。経験値を見える化したり、手順を体系化することでより効率的な組織運営(マニュアル化)ができたら、と考えるだろう。
体系化
組織のマニュアル化の目的の一つは「より多くの人がミスすることなく、困難に直面することなく、パターン化されたアプローチで、それなりの成果を出せる」仕組みとも言える。マニュアルに従っていれば、成果もだせるし、独自に状況に応じた判断をする必要もないので安心だ。
だがマニュアルは陳腐化する。
平均寿命は23.9年
東京商工リサーチのまとめによると2018年に倒産した企業の平均寿命はわずか23.9年だった。
この数字には創業後10年以内に多くが倒産するスタートアップを含んでいるだろうから、10年以上続いた企業の平均寿命はもう少し長いだろう。
しかし、スタートアップに成功し一定の成功をおさめた企業でも、かなりの数の企業が何十年か後に倒産していることも事実なのだ。
変化するビジネス環境への適応
ビジネス環境は変化している。現在は特にビジネス環境の変化が目まぐるしく変わっている。
この変わりゆくビジネス環境の変化を捉えて、急成長した企業なんてあげればキリがない。誰もが知るような大企業であっても、前世紀末の2000年には全く無名もしくは存在すらしていなかった企業もある。逆に当時それなりの成功をおさめていた企業にとっては、時代の変化への対応が求められている。
この点は生物の適応進化にすごく似ている。
変わりゆく環境に適応できなかった種は滅び、新たな環境に適応できた種は繁栄し生き残る。
企業による新規事業の課題
ビジネス環境の変化に適応しさらなる生き残りをかけて、既存の企業も新規事業に取り組んでいるが、なかなかうまくいかない。
マニュアル化 x 新規事業
一つの原因は、これまでに述べてきた「マニュアル化」による弊害だ。マニュアルは過去の特定のビジネス環境に特化した手引書であり、(適切な改訂がなければ)新しいビジネス環境への適応には不向きだ。
しかし、既存企業の新規事業が失敗する根本的な原因は、このマニュアルなどのオペーレション(運用)のせいではなく、それを運用する人のメンタリティにあると感じている。
減点方式 x 新規事業
新規事業の特徴は何か?
一つ、確実に言えることは、全てが計画通りうまくいくことなんてない、ということ。100発100中なんてあり得ず、多くの失敗の中から成功する事例がでてくるものだ。
つまり、失敗するのが当然、ということが新規事業の特徴と言える。
減点方式のメンタリティ
他方で、マニュアル化された組織はミスを許容しない。失敗しないようにマニュアルが整備されているのだから、マニュアルを守らなかった人には「減点方式」で対処する。
マニュアルを守れる人材が組織にとって優秀な人材であり、マニュアルを守らない人材は価値がなくむしろ迷惑な存在となる。結果として、マニュアルからの逸脱を恐れ、減点方式で人を測ろうとする組織文化が浸透する。
加点方式:失敗を許容できる組織
失敗することが当たり前の新規事業という性質と、失敗を許容しない減点方式の組織は、極めて矛盾する性質のものである。
ゲームプラン「100:10」の戦い
新規事業のメンタリティとは、言わば10失点してもその間に100得点をあげれば、結果として「100:10」で勝ちゲームでしょ?ということなのだと思う。
他方で、減点方式のメンタリティに支配された組織は失点を許さない。何がなんでも「0失点」であることを美徳とする。さらに、失点がゼロであれば、組織のロジックとしてまだ負けていない(ゼロ失点なら負けではない)という雰囲気すら漂っているケースもある。
いや、ゼロ得点なら勝てないでしょ、と私は普通に思ってしまうのだが。。。
企業による新規事業の挑戦
まずは、新規事業に取り組むメンバーが失敗を恐れないで活躍できる環境「加点方式の物差し」を整備することから、企業による新規事業の挑戦は始まるのだと思う。